CLT DESIGN AWARD
2023
ー 設計コンテスト ー

「CLT DESIGN AWARD 2023 -設計コンテスト-」は、『市街地の小学校』をテーマに 、CLTを活用した、多様な子供たちに対してインクルーシブな学びの場を提供するとともに、地域コミュニティの一部としても機能し、
子供たちと地域を繋ぎ、新しい価値を生み出す市街地の小学校の設計提案を募集いたしました。
幅広い世代の方からご応募いただき、応募総数149点(エントリー数249件)のご応募となりました。たくさんのご応募誠にありがとうございました。審査委員による厳正な審査の結果、大臣賞3点、日本CLT協会賞2点、日本CLT協会賞学生賞1点の入賞作品が決定いたしました。

農林水産大臣賞

Rewooden school

No.139

小林 隆太(株式会社大林組 医療ソリューション部)

作品コンセプト

「木の温もりと再生」で豊かな環境と地域のコミュニティを未来に繋げる小学校
小学校の多くはRC造で作られ、老朽化や少子化からその再構築が課題です。本提案はRC造の上階部分を解体し、CLTで空間を再構築・最適化するものです。RC撤去による建物自重の軽量化で耐震基準への適合化を図り、既存建物を将来も有効活用します。また解体範囲縮小による解体CO2の削減、木造化によるCO2固定量の創出に寄与します。
少子高齢化が進み、教育施設の空洞化が懸念される松山市の清水小学校を対象に、地域の産業を活用してオープンラボや図書館などの交流空間を創ります。そこは未来を担う「こども」や「大学生」、技術を伝える「働き手」の『交差点』となり、同時に「環境」「人々のつながり」「技術」を未来に繋ぐ『中継地』でもあります。上層部に、構成の自由度が高く施工の簡略化が可能な「CLT構造ユニット」、既存部分は「CLT耐震壁」を採用し、「木」を感じられる変化に富んだ空間を提案します。既存建物の木造化のため、準耐火・耐火建築物のハイブリット化が必須です。上階の木造部分は避難と延焼防止性能を重視した準耐火建築物とし、耐火規定を緩和させることでCLTの更なる利用促進を図ります。

作品講評

面積を維持したまま、既存のRCの重い層の上層部を2層取り、上層部にCLTを使用した軽い層を追加して耐震性を向上させるハイブリット構造の提案です。この建物は、既存の校舎の構造を活かしつつ、自由度の高い空間を提供し、多様な学びや地域の利用を可能にしています。
また、CLTを使用した木質化空間の施工性や松山市近傍地域の森林資源循環にも配慮されています。この提案は、耐震性を目指す新たな視点からうまれたものであり、非常に興味深いと評価されました。さらに、このアイディアは実現可能性が高く、今後の普及が期待されます。

国土交通大臣賞

分解する小学校-媒体としてのCLTがつくる空間の肌理-

No.90

菊澤 拓馬 四宮 駿介(SUPPOSE DESIGN OFFICE株式会社)

作品コンセプト

少子化の影響を受けており小学校の統廃合が現実のものとなっているなかで、既存の小学校建築を瞬間的に解体するのではなく、ゆっくりと解体していくことを提案します。敷地に選んだ小学校はオフィス街や都庁に近接した都市の中の学校です。減少していく児童数に合わせて長いスパンをかけてゆっくり減築するなかで既存の特別教室が地域の交流の場として顕になっていきます。長期間の減築を行うために補強を行うことで、小学校が地域に溶け込む猶予をつくります。補強としての使用に加え、素材としてのCLTの魅力を考えます。
CLTはファーニチャーや教室にも用いることで木の温もりを伝えるだけでなく、ワックス掛けなどのメンテナンスを児童が行なったり、CLTにアッタチできる家具を創作できるなど木育の場となります。またアーチ状に切り欠いた補強材は子どもたちの遊び心を刺激します。都が運営する近隣の国産木材の魅力発信拠点と連携して地域に根差した公共施設へと変えていきます。

作品講評

この作品は、既存のRC構造にアーチ型CLTパネルを構造補強に利用したハイブリット構造の提案です。アーチ型の連続が美しく、開放的な空間を生み出しています。
また、CLTを用いたアタッチ家具や構造補強を兼ねた出窓小上がりなど、CLTを様々な使い方をする点が高く評価されました。さらに、地震時の抵抗要素としてCLTを採用し、使用時に現し使用としており、学校建築として手をかけることができる木の壁があることが魅力的であると注目されました。壁に木を採用することで将来的に学校以外の用途変更に柔軟に対応できる自由度も評価されました。

環境大臣賞

Re下谷小学校 -CLTを用いた既存ストックの再生-

No.153

荘司 知宏 本多 みずほ 多田 翔哉 金子 奈央 野瀬 匠(株式会社熊谷組)

作品コンセプト

東京・上野の地に残る旧下谷小学校は、関東大震災以後RC造の小学校のプロトタイプとしてつくられた復興小学校のひとつである。本計画では、CLT を用いた耐震改修に可能性を見出し、老朽化した校舎を既存ストックとして保存・活用して、次世代に向けた小学校へと再生した。既存躯体に外付けしたCLT は耐力を付与するとともに、平面を柔軟に拡張し、CLTの木質と歴史的意匠が織りなす空間を創出することができる。既存外壁の南側には、一般教室や特別教室である「CLT room」を拡張し、北側にはCLTを構造フレームとした大空間「CLT void」を増築した。
東京の市街地において、近隣に分散する小学校や公共施設と機能を相互に補完し合う関係性を構築することで、小学校を通して地域全体に新たな価値をもたらすことを考えた。長きに渡って地域に根付いた近代遺構をCLT によって現代版復興小学校として再生することで、歴史継承、地域交流、多様な学びを生み出す場所となることを目指した。

作品講評

この作品は、既存のRC造建物に部分的にCLTを使用して耐震補強し、新たな空間を創出する構成がされています。この手法は現行の法規には適合しづらいものの、将来的に採用される可能性があります。
また、外観保存とRC構造の再生を考慮したユニークでアイディアに富んだコンセプトや内部空間のデザインに対する独自のアプローチが評価されました。建築物の歴史的価値や特色を尊重しつつ、新たなデザインや機能性を取り入れることで、建築物の魅力を向上させる可能性を示唆した作品として、高い評価を受けました。

日本CLT協会賞

芽ぐみの森-多様性が生まれる小学校-

No.42

千葉 大地(株式会社プランテック) 玉村 愛依

作品コンセプト

感受性が強く、社会性を身につけていく過渡期である小学校6年間に、CLTによって造られる多種多様な建築空間によって、従来の小学校では得られない活動や機会を与えられる建築を目指した。敷地は市街地でありながら豊かな自然に囲まれる武蔵野市立第二小学校に設定した。
CLTの特徴である加工のしやすさと、マザーボードの規格による特有の寸法を活かし、子供の生活をのびやかで自由なものにするため、数パターンの形を決定し、その形状にマザーボードを切り抜く。これによって生まれる余分なパーツも建材として利用することで、意図しない形状による偶発的で新たな空間の使い方を実現する提案である。例として、一般教室群は廃材が出ないようなパーツの組み合わせによって特有のスケールのユニットを構成した。また、CLT材は「燃えしろ層」と「構造部材としての耐力」を考慮した5層7プライの構成とすることで、1時間耐火構造とスラブの剛性を確保することにより大空間の設計も試みた。

作品講評

CLTのマザーボードを効果的に活用し、余すことなく使い廃棄をゼロにすることを考えられた提案です。抜かれた部分も再利用することで、建物全体に独創的な造形が生まれています。
この建物では、学校建築の環境において、解釈の余地があるものが取り入れられており、自主的な場の解釈や用途の見出し方によって新たな発見が生まれることが面白いと評価されました。また、小規模校の計画において、CLTを活用しながら多様な場所を提案する視点が、学校建築のとらえ方として重要な視点であると評価されました。

日本CLT協会賞

Reciprocal Module School

No.92

朝山 宗啓(朝山宗啓建築設計事務所)

作品コンセプト

国の成長戦略の一環として、建築における木材活用の機運が高まる社会背景のなか、学校施設等、開放性が求められる中大規模施設でのCLTの利用促進・普及を目指し、軸組構造による標準化構法を考案した。市街地での建設を想定していることから、輸送や施工の効率化、立地による制約からの解放を意図し、小分割された歩留まりの良いパーツを組み立てることで成立する構法としている。この構法は、CLTにより構成されたT型モジュールの配列によって、8m間隔に柱を落とすシステム(SSS)と、ロングスパンを意図したシステム(LSS)の2種の架構形式が選択でき、これらを適材適所、使い分けることで、シンプルなシステムながら多様なスペースが創出できる。
また、金物工法による継手・仕口の採用により、材の着脱が容易であるため、教室数の需要の変動や用途転用による改築・減築ができる柔軟性のある計画としている。以上から、人口動態や地域のニーズに対応した持続可能な建築物の創出に貢献できるものと考えている。

作品講評

CLT標準化工法の新たなメニュー提案から、その構法を適用した市街地の小学校を計画するという提案です。
この提案では、CLTで作られたエル型やボックスの柱を使用し、開口を確保しながら標準化されたフレームで教室を構築し、独特のレシプロカル構造を持つ梁を使用して、短い材で大きな空間を覆う方法が面白いと評価されました。また、柱と床の基準を組み合わせ、RCとCLTのシステムを共存させ、要求に応じて組み上げていくアプローチが提案されており、部材のシステムからの発想を活かして、学校の建築に貢献するアイディアとして高く評価されました。

日本CLT協会賞
学生賞

木を建て、小学校を植え、町がなる

No.123

矢澤 青大(東京都立大学大学院 都市環境科学研究科 建築学域)

作品コンセプト

町をつくるように小学校を建てる。CLTを活用した小学校が学生や周辺地域の人に愛され、学生の活動がCLTを介し町に広がって行くことを目指した。敷地北側に地域住民が利用できる体育館、図書館、公民館を配置し、クラスルームとの間に大通りと路地の関係でワークショップスペースを作ることで、外部に活動がはみ出していく。
CLTパネルを利用し入子のような構造とすることで、クラスルームとワークショップスペースの間に1~2m程の「こどものポケット」ができる。そこを学生は集中したいときや一人になりたいときに使用する。CLTパネルで囲まれた空間で学ぶ小学生は、6年間で木に愛着を持つ。校庭にはCLTで作成した遊具兼ベンチを配置する。学生は遊具として遊び、地域住民はベンチとして使用し、イベント時には椅子や仕切りのように活用できる。このCLT遊具とともに学生の学びの範囲は町全体に拡張していくだろう。

作品講評

この作品は、小学校を町とひとつの「共同体としての学校」ととらえ、学生の学びを町全体に拡張する提案です。比較的落ち着いた学校の雰囲気を持つ建築であり、シンプルながらも明確な筋の通し方が評価されました。
また、教室のサイズの組み合わせに工夫が凝らされており、見た目以上に多様な利用が可能であることが期待できる提案です。さらに、都市コミュニティの再建を支援するアイディアが多く含まれており、その点も高く評価されました。

審査委員長総評

審査委員長

三井所清典

芝浦工業大学 名誉教授

「市街地の小学校」をテーマにすれば、小学校の現在の課題やこれからのあるべき小学校を考えた様々な提案が予想されたので、学校施設計画の第一人者長澤悟東洋大学名誉教授を特別審査委員に招いて、コンテストを実施することになった。応募は149件と多く、提案内容は地域差も加わり多様であり、審査は現実的な案に限らず、将来の可能性も含め幅広く検討しながら進めた。選考は投票と審議を繰り返し、次第に数を絞り、最後は5案を協議によって各賞にふさわしい作品を選び決定した。

農林水産大臣賞は耐震改修に際しR C造の3階部分を減築し新たにC L Tで軽量な教室を構築すると共に、下階のR Cの間仕切壁をC L Tに変え、木造化・木質化で再生させる案を、国土交通大臣賞はR C造の耐震改修にC L Tのアーチ型開口の壁を桁行フレームに連続的に嵌め込み、内部はC L Tのベンチやテーブル等のある通り土間と小上がり風なC L Tの床の教室を組合せた案を、環境大臣賞は老朽化したR C造の復興小学校の外側にC L Tパネルで耐震補強し、同時に新しい機能を付加して、木質化の外観で地域包括型の小学校として再生させる案をそれぞれ選出した。

日本C L T協会賞には大きなC L Tパネルとマザーボードを細やかに裁断した部材を組合せて、多様な児童の居場所のある小学校の提案とC L TをT型に組合せた梁と十字形の柱を開発し、様々の学校施設に適用しようとするモデル案の2つを選定した。

日本C L T協会学生賞にはC L Tパネル工法で入れ子構造の校舎をつくり、クラスルームとその他を広い廊下で明確に区分し、安全を保ちながら地域に開く案を選んだ。この案だけでなく、全体として小学校施設を地域社会に開放し、都市コミュニティの再構築に役立てる案が多かったことは印象的で、時代の要請ではないだろうか。